ああ、おもしろい虫の声。
2009年9月14日の新井さんの日記
NHKのFM放送の新番組「日本の歌・世界の歌」の中で文部省唱歌「虫のこえ」を放送していました。
聞いていて、あれちょっとおかしいのではないかと思いました。
あれ松虫が鳴いているチンチロチンチロ・・・・鈴虫も鳴き出したリンリンリンリン・・・・ガチャガチャくつわ虫・・・・あとからウマオイ追いついてチョンチョンスイッチョン・・・はいいけれど、歌の2番の始まりの「キリキリキーリキリ コオロギも・・」というところ。コオロギの鳴き方はキリキリよりはコロコロが一般的ではないのか?と気になったのです。
元々の文部省唱歌ではコオロギではなくキリギリスであったという話を思い出しました。安藤支部長さん共著の「鳴く虫セレクション」にも内田正吉さんが述べておられます。岩波文庫の堀内敬三編の「日本唱歌集」を見ると確かに明治43年尋常小学読本唱歌「きりきりきりきり きりぎりす・・・」となっています。
その後どうしてキリギリスが現在のコオロギに変えられたかは、私の想像ですが、キリギリスの鳴き声は「ギーーッチョン」であり「キリキリ」はおかしいのではという指摘があったが、いやこのキリギリスというのは実はコオロギのことなのだ、昔は(明治の頃も?)コオロギのことをキリギリスと言っていたのだ。それなら歌詞を「キリギリス」から「コオロギ」に変えて歌おうということになったのでしょう。
しかし、コオロギの鳴き声は「キリキリ」よりもエンンマコオロギの「コロコロ」が代表的ではないのか?
そこで私は学研の「新古語辞典」で「きりぎりす」を引いてみました。次のように出ています。
コオロギの古名。秋に「綴り刺せ」と鳴くという。「秋風に綻びぬらし藤袴綴り刺せてふきりぎりす鳴く 古今集1020」
そうか、文部省唱歌のキリギリスはツヅレサセコオロギのことなのだ、ツヅレサセコオロギならばキリキリキリと聞き做してもおかしくない、キリキリよりもリリリリリリと普通は聞き做しされるだろうけれど。明治の作詞者(不詳)も古今集のこの歌を踏まえてツヅレサセコオロギの鳴き声を歌詞に取り入れたのかも知れない。
ツヅレサセコオロギでなくてもエンマコオロギ以外の多くのコオロギは リリリリ・・・とか ギギギ・・・と鳴くから、「キリキリキーリキリ コオロギも」
とコオロギの鳴き声を「きりきり」としてもおかしくはないかと納得する気になりました。
それと、元々の歌詞の「きりきり きりぎりす」は、鳴き声に忠実に「りりりり きりぎりす」よりも、「きりきり きりぎりす」の方が語呂がいいから「きりきり」にしたのかもしれません。
以上が私の推論です。こんなことは先刻当会でも、或いは他の方々で論じ済みのことかもしれませんが。
新井 彰
虫の楽隊
作詞 桑田春風
作曲 田村虎蔵
一、
千草・八千草、乱れ咲きて、
花を褥の夢おもしろと、
おのずからなる虫の声々
チンチロリン、チンチロリン、
スイッチョ、スイッチョ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
月ある夜半は
秋の野面の楽隊おかし。
二、
鈴虫・松虫・くつわ虫や、
こおろぎ・馬追・鐘つき虫の、
節もさまざま、歌に囃子に。
チンチロリン、チンチロリン、
スイッチョ、スイッチョ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
風なき夜半は
秋の野面の楽隊おかし。